episode1 これまでの歴史と私

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私の父は偉大な魔導師だ。 性格は温厚かつ威厳がある上、一際魔力が強くどんな魔法でも使ってみせた。 自慢の父・・・だった。 10年ほど前、この世界に大きな災厄が降りかかった。 別の世界から来たであろう、生物と到底呼べない怪物が私達の世界に襲いかかってきた。 人間は喰い荒らされ、村や街は火の海へと変わり果てた。 人々は皆口を揃えて言う、「魔法という禁断の術を使ったが故に神々がお怒りになられた」と。 私の父もその怪物に喰われ、永遠に帰らぬ人となってしまった。 私は右腕と両足を喰われ、右目も潰れたが、どこからか回復魔法をかけられたので何とか生き延びた。 今は母と二人暮らしで、寝たきりの生活だが何とか上手く過ごせている。 しかし皆と同じように自分で歩けないのは、少し寂しい。 この感情を劣等感と言うのだろうか。 私はずっと仕方ない事だと自分を押し殺してきた。 一度失った体はもう二度と元に戻らないのだから。 そう思って過ごしてきた、アノ事が起こるまでは。 自己紹介が遅れたが、私の名前はリィである。 私はいつものように寝たきりの生活を過ごしていた。 朝、寝室の窓から差し込む朝日はもう見慣れたものだ。 寝たきりの生活は退屈で、憂鬱でもある。 せめて足があれば家事を手伝ってやれるし、外で走り回ることも出来るだろう。 唯一の退屈しのぎは、魔法を覚えることくらいである。 私は父の遺伝子を濃く継いでいるらしく、他の人々より魔力が強いようだ。 故に比較的魔力を使うものも容易く覚えられる。 しかし歩けないので、そんな魔法を使える場面は少ない。 そんな事を思っていては一層強く手足が欲しいと願うようになる。 欲しい、けど一生手に入らない、・・・そんな葛藤を毎日繰り返していた。 そんなある日、私の住んでいる村に大型の動物が作物を荒らしにやってきた。 村の人々はなんとか撃退しようとするが、初級ほどの魔法しか使えず到底太刀打ちなど出来なかった。 ここで私が出れば、撃退できる。 しかし歩けない、どうにも出来ない。 でも助けないと作物が食い荒らされる。 私の葛藤は、やがて一層強い願望へと変わった。 その時、私は一瞬意識を失った。 目の前が真っ暗になったと思えばすぐに目を覚ました。 しかしここは見慣れた寝室などではなく、ただの白い世界だった。
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