気が付けば、あっという間に……

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後悔の中、ふと視線を落とす …………ん?…… 視線の先には両脇腹から巻き付く二本の腕 その細い腕には見覚えがある 俺はその細い両手首を掴むと 腰のロックを解除し、振り返った 振り向くと同時にそっと言い放つ 「朝っぱらから何してんの?……」 「驚くかなぁと思って……」 そこに居たのは例の彼女だった 俺のスウェットとジャージを着ている 彼女はこちらを指差し、クスクスと笑っている 「まさか……定規1つであんなにビビるとは思わなかったけど……」 手には三角定規が握られていた 元気そうなその姿を見て 俺は緊張から介抱されたからか その場に座り込んでしまった あまりの姿に彼女も慌てて駆け寄って来る 「え?…あっ、ごめん……そんなつもりじゃ……」 口元を抑え、心配そうに見つめる彼女に 俺は頭を抱えていた 「あ~、本当どうしようかと……」 その時、チラッと視界の端に見えた彼女の手 左手の薬指には指輪がはめられていた その指輪を目にすると すべてを思い出したのだ 昨日1日デートした後 ディナーの席で俺は彼女に婚約を申し出たんだ 指輪をしてるって事は、そういう事だろう 立ち上がった俺は とりあえずシャワーを浴びる事にした ソファーへ彼女を誘導し、風呂場へと向かう 熱いシャワーを浴びながら 昨日の出来事を思い返してみた 昼過ぎ待ち合わせして まずは近くのファミレスでランチを食べた そのまま映画館へ行き、軽く買い物を済ませて 予約していた高級ディナーの店に入った そこで一世一代の大勝負に出たのだ 思い返しても恥ずかしくなる 思い返す中でふと気付いた事があった あっ……さっき送った……メッセー…… すぐにシャワーを止め慌てて着替えを済ませた 濡れた髪を引き下げ部屋に戻る そこに彼女の姿は無かった よっ、読まれた?……まずいっ………昨日の事忘れてるなんて知られたら…… 頭を過ぎる血祭りの映像 幸せの朝からサスペンス劇場へと変わっていく 生唾を飲み込み、恐る恐る寝室の扉を開けた 布団が不自然に盛り上がっている 良かった……まだ居た…… 「………おーい……」 軽く呼び掛け、布団をめくり上げた そこに居た彼女の姿に、俺は愕然とした
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