カリスマは語る

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「私のことを失敗することに成功したという人がいる。または私に対して、夢を叶えないという夢を叶えたという人がいる。確かに言葉の上ではそういうことになるのかもしれない。しかし本来、成功するとか失敗するというのは言葉では的確に言い表せない現象なり現状を意味している。要するに誰もが望んでいるものは言葉そのものではなく、言葉の向こう側にある現実であるはずだ。だからこそ求めるのならば、その理想の状態を意味する言葉やイメージを受け入れた上で、その言葉やイメージが溶解したり粉々に砕け散るなど、言葉が持っている本来の意味を持たなくなるくらい、真摯に向き合うことが大切なんだと思う。…この度、私は結婚することになりました。相手は大富豪の娘です。しかし愛がそれに勝るものだと判断し私は再び成功している状態から人生を歩むことにしました。」 青年は時折、声を詰まらせたり涙ぐんだりしながら話を終えた。座りながら彼の周囲を取り囲んでいる人々の間から拍手や激励の声が巻き起こったが、その割にその場からすぐにみんな去っていった。男Aと男Bもそそくさと元いたビーチパラソルの下のイスへと戻った。どちらかということもなく話し始めた。 「やはり成功してここへ訪れたのか。」 「これといって何かあるわけでもなかったけど、みんな冷たいね。上手い話を持ち掛けられそうだと思ったのかもしれないけど。」 「でも、きっと彼なら再び大失敗するに違いない。そして沢山の夢を叶えないだろう。」 「ああ。でも人生には成功するとか失敗するとか夢を叶えるとか叶えないということよりも大事なことがあるということだ。そう思えるなら成功したままの人生も悪くない。」 二人とも折り畳みイスに座りリラックスしたまま、触り心地が良い肘掛け部分のパイプを握ったり緩めたりしながら遠くを眺めた。
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