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常夏のリゾート地で二人の男が久し振りの休日を楽しんでいる。海辺でビーチパラソルの日陰になっている折り畳み式のイスに、海パン姿で寝そべりながら快晴の空を見上げている。暑い日差しの熱が芯から疲れをほぐす。
空には小さな太陽が二つ昇っている。くつろいでいる二人の男はそれぞれ、三ツ矢の形をしたプロペラのようなサングラスをしている。そのため両目と額の中央が隠れている。
男Aが男Bに話しかけた。
「こうしてまた有意義な休みを過ごしているということは相変わらずというわけだ。」
額の両端に汗を掻きながら男Bが答えた。
「…相変わらずだ。」
波の打ち寄せる音が心地良かった。耳だけでなく瞳の奥まで爽やかな清涼感が行き届き、気分を潤すかのようだった。
更にくつろぎながら二人はお互い気兼ねなく雑談をし始める。男Aから話し始めた。
「結局、俺もおまえも学生時代に大失敗する人生を志したものだが、平凡で裕福な生活に甘んじてしまってるな。」
「そうだな。人並みに楽してしまって簡単に成功してばかりの人生だ。失敗のない。」
「知ってるか?名前を忘れてしまったが同じクラスだった背の低い無口なあいつ。」
「ああ。俺も名前は忘れてしまったがなんとなくどんな感じの顔か思い出せる。」
「あいつは大失敗して今じゃ無一文で、もうじき借金するんじゃないかっていう噂だ。」
「へー。だけどあいつはエリートじゃないか。家系が代々貧しかったんだろ?あいつは別格だよ。恵まれた環境で育ったんだよ。」
「まぁそうだけど。近々、失敗のノウハウを書いた本を出版するらしい。このごろ流行りの自己堕落本というやつだ。羨ましいな。」
「何言ってるんだよ。自己堕落本を出版するということは収入が入るわけだから邪道だと思うがな。本物の失敗ができるやつが本なんか出すわけないじゃないか。それができたら今頃みんな失敗しているはずだよ。」
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