その人物は

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「カリスマ無職のCさんじゃないか。こんなところで何してるんだろう。」 「おそらくこんなリゾート地に彼が訪れたということは、まさか就職が決まったか財産を得たかして成功してしまったのか?」 「そんな馬鹿な。あれほどの伝説的な人が。もしそうだとしたら世も末だ。一体何があったんだ?だんだんCさんの周りを人が取り囲んで来始めているぞ。行ってみよう!」 「いや待て。ここで少し様子を見よう。あれだけのカリスマだ。より失敗するためにここを訪れたのかもしれない。みんなを成功に導いて自分だけが失敗の恩恵に与ろうという魂胆かもしれない。」 「俺は一人でも行くぞ!男にはなりふり構わず成功を恐れずに飛び込むほどの度胸が必要な時があるって昔、俺の爺ちゃんが言っていた。今がその時だ。俺を止めるなよ!」 「わかった。俺も行く!また来年も高級リゾートでバカンスなんてまっぴらだ!もし来年さらにランクが高い贅沢な観光地に行くことになったとしても構わないくらいの覚悟で行く。人混みでCさんが見えなくなったぞ。」 二人は夢中で砂浜を駆け出した。日光を含んだ熱い砂は彼らの足の裏から情熱を駆り立てるかのようにゆらゆらと煌めいていた。 彼らが人混みの多い場所に辿り着くと同時に、密集した人々の固まりがゆっくりと後ろに下がってきた。二人は隙間から分け入ろうとするが人々の流れに押し戻されてしまう。 仕方なしに流れに任せていると、ある一定の間隔を確保した人が前からどんどん座り始めた。やがて二人も場の雰囲気を察して砂の上に座ると、人の輪の中に佇んでいる青年の姿を見ることができた。ざわざわしている群衆の中から、これから青年が夢を叶えない方法を伝授する、ちょっとした講演会のようなものを始めるという情報が耳に入ってきた。 その情報がだんだん彼らよりも後ろの方にも伝播するように広がっていき辺りを飛び交う話し声が少しずつ静かになっていった。 そして完全な静寂が訪れた。聞こえるのは繊細な波の音と優雅な風の音だけになった。 小汚い格好をした青年は少しトーンが低く小さめの声でぼそぼそと語り始めた。
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