むじなの涙

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あんのじょう、オカミさんから聞かれた。 あのひとが言ったとおりに “やった”と言うと 「よくやったね!これで一安心さ!」とほめてもらえた。 なぁ~んだ、簡単なことだったんだ。 あのひとの言うことは、間違っていなかった。 “ウソ”って、こういうふうにつかえばいいんだ。 その晩は、安心して眠りについた。 夜明けまだき、トイレに行こうとして ふすまの向こうからオカミさんとダレカのしゃべり声が聞こえた。 「あのオトコ、紳士服製造の若ダンナだってさ」 「まぁ通帳2、3冊はイッテんじゃねぇか」 「そろそろ潮どきかもね」 あたしは尿意も忘れてこおりついた。 あのひとがもう来なくなる、 これ以上おカネつかわせちゃダメだ、 いつになったらシャッキンなくなるんだろ、 そっか!あたしさえ消えれば誰にも迷惑かかんない! 腹は決まった。 かり住まいの四畳半一間で、こっそり手に入れた眠り薬をすりこぎで、こなごなにして一気に喉の奥深く流し込んだ。 その足でラーメン屋に行って、普段食べれなかったギョーザを今生の別れ とばかり胃に流し入れて部屋に戻り、そっと横たわった。 三日月に乗ったピエロのかべかざりに見守られながら、目をつぶった。 ピエロが、コクンとうなずくのを見た。
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