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「おやすみ」
そう言って僕は眠りについた。
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「おはよう」
肩までのびた黒髪をなびかせながら彼女がいつもの笑顔で僕に話しかけた。
場所は最寄りの駅前らしい。"らしい"と言ったのはここが夢の中だからだ。同じ夢を毎晩見続けてもう4か月になる。
「ねぇ、国語の宿題やった?私、昨日1時間半もかけてやったんだけど全然終わらなくてやんなっちゃう。辞書の電池も切れちゃってね」
夢の中の彼女は話を進める。彼女から話を始めるのはいつものパターンだ。昨日あったことを感情豊かに僕に話してくれる。まるで歩く日記帳みたいだな、と僕はひそかに思っている。
そんな彼女が僕は好きだ。いつ出会ったのかも、どうして付き合うようになったのかもわからない。苗字もわからない。ただ夢の中の僕は自然と彼女を「葉月」と呼んでいた。だからきっとそれが彼女の名前なのだろう。
いつも毎晩僕の夢にでてきて、楽しい時間を残してくれる。この奇妙な体験を僕は少しも怖いとは思わなかった。
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「おはよう、桐人、、まったく、挨拶ぐらいしたら?」
こちらは現実世界。朝食の支度をし終えた母親が
いつもの小言を加える。「おはよう」という同じ言葉なのに、発言者 によってこうも違うのかと日常の現実の厳しさをかみしめる。
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