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私の目が光を見る事はもうありません。
「いいえ、もうやめましょう。それよりもこれからの話をしましょう」
レナードが立ち上がって私の隣に腰掛けるのが分かりました。
彼の手が私の肩に触れ、抱き寄せられて、すぐ傍に息遣いを感じます。もう私の好きなあの笑顔を見る事はできないけれど、彼の声や体温に安心しました。
今私の薬指には新しい感触があります。
つい先日レナードが私の指にはめてくれた物で、そこに埋め込まれた小さな石は私の好きな緑色をしているそうです。
「これからはもっと未来について考えていきましょう」
「ありがとう。でも」
「あんな事があったのにいつまでも気に掛ける必要はない。それにあの一件だけじゃなく、これまで何度もあの人はあなたを苦しめてきたのに」
「ではあなたは、私にあの子を憎むべきだと言いたいの?」
「そんな事は言っていない!」
珍しく声を荒げられて、心臓が縮こまってしまうかと思いました。レナードが息をのむ気配がします。かすかに、ごめんなさいという声がしました。
「僕は、どうしていいのか分からない」
私の腕に縋るレナードの手が震えているのが伝わってきます。
「あの人は子供の頃から僕を慕ってくれていたんだ。いつも眩しい笑顔を見せていた。僕はフィオナ様を嫌いたくないのに、そうなっていく自分に嫌悪感を覚える」
彼は泣いているのでしょうか。
どうにか冷静さを保とうとしているような声音です。しばらくの間私達は何も言わずに身を寄せ合っていました。
「ああ、みっともない所をさらしてしまいましたね。僕があなたを支えていかなければならないという時に」
私は堪らなくなって彼の手を握りました。
「ねぇレナード、お出掛けしましょう」
触れ合った手からかすかに動揺が伝わってきます。
「外の空気が吸いたいの、連れ出してくれる?」
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