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その日の昼、母の作ってくれた昼食を手早く食べ終えた私はすぐに出かける用意をしました。
「どこへ行くんだい?」
食器の後片付けをしていた母が台所からひょいと顔を出しました。
「森の泉。フィオナと約束しているの」
その名前を聞いた途端に母はしかめつらしい顔をします。
「あの子と関わるのはよしな」
ああ、またです。
母のこの言葉はいつも私を少し不快にさせます。
「お母さん、変な噂を信じるのはやめて」
「そうは言うけどね、あたしはあの子がおっかなくて仕方ないよ。子供の頃は明るくて可愛げがあったけど、ここ最近はずっと不愛想にしているし、それにレナードの事もあったから」
その名前に私はぎくりとしました。
レナードというのはフィオナの家で働いている使用人の男性です。
「レナードのあの話。あれ、フィオナがやったって噂じゃないか」
「違う、彼はただ森で迷っただけ。本人がそう言っていたでしょ?」
動揺を悟られないように私は慎重に答えます。
「もうひと月も前の話よ。今は元気になって、元のように生活しているの」
「わかってくれよ、いつかあんたが危ない目に遭うんじゃないかって気が気じゃないんだ。それにフィオナの母親だって未だに」
「お母さんったら!」
思わず大きな声を出して母の言葉を遮ってしまいました。いくら実の母親といえど親友を悪く言われたくはありません。
「とにかく、私もう行くね」
それだけ言って私は家を飛び出しました。
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