第一章 【出口のない町】

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 その昔、もう何十年も前の事になりますが、この町には金色の髪と緑色の瞳をした美しくも不気味な女性が暮らしていたそうです。  彼女は不思議な力で人々を苦しめ、逆らう者には呪いを掛けたと言われています。  彼女に関わった者、特に彼女を傷つけようとした人間はみんな恐ろしい目に遭ったそうです。  それがどんなに些細な事でも、一度彼女を不愉快な気持ちにさせたら最後、その人には必ず悪い事が起こるのです。  人々は彼女のことを災いをもたらす魔女と呼び、恐れ、そして私の親友フィオナはその生まれ変わりだと言われています。  魔女と同じ色の髪と瞳をしていて、顔立ちもそっくりなのだそうです。  それだけならただの偶然という言葉で片付けられるのですが、実際にフィオナの周りには、事故に見舞われた人や病気になった人が何人もいました。  フィオナに関わった人間はみんな不幸になる。  そんな噂を何度も耳にしたことがあります。  私は首を振って嫌な考えを振り払いました。  森の泉でフィオナが待っています。あそこは私達の出会った思い出の場所でもあり、悩みがある時にはあの場所で相談をするのが私達の決め事でした。  ここひと月は顔をあわす機会があまりなかったけれど、久しぶりに話があると呼び出されたのです。  早足になって町の中央にあるレンガの橋を通り、石畳の道に沿って進んでいきました。 「ねぇ、あの話聞いた?」  井戸の前を通り過ぎようとした時、立ち話をしている女性達の声が聞こえてきました。 「レナードの事でしょ。彼、行方不明になる直前までフィオナと何か話していたそうね」  その会話に思わず足を止めてしまいました。 「そもそもおかしくない? 町の中でいなくなった人間がなぜ森の奥で発見されるの」 「彼がフィオナを怒らせたのよ。だからあの子はレナードを消そうとして」  女性達はさも恐ろし気に会話を続けます。  胸の奥に嫌な気持ちが沸き上がってきました。  なぜ立ち聞きなんてしてしまったのかと後悔しながら、そっとその場を離れました。 「間違いない、フィオナは身近な人間に呪いを掛けているんだ。次はきっとサーシャの番だよ」  最後にそんな言葉が聞こえてきました。
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