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ひと気のない泉の前でフィオナは待っていました。草の上に座り込んでじっと水面を睨んでいます。
いつものように質のいい服を身に着けていますが、緑色の瞳はもの悲しげで、長い金髪は結われることもなく肩に流れています。
「いい天気ね、フィオナ!」
明るく挨拶をすると青白い顔が振り返りました。何かを警戒しているような、緊張した面差しをしています。
いつもだったら微笑みを返してくれるのに、今日は目を合わそうともしてくれません。
「最近、とても苦しいの」
やっとのことで口を開いたフィオナは、まるで亡霊かなにかのような暗い様子でした。
「どこか具合でも悪いの?」
「違う。もう、何もかもが嫌で堪らない」
髪を振り乱しながらフィオナは震える声と恐怖に満ちた顔で語りました。
「先日、お母様のお見舞いに行ったの。お母様はずっと前から私のことが分からなくなってしまった。それでも、あんな言葉を掛けてはこなかったのに」
「何か言われたの?」
「私を化け物だと呼んだの。お前のせいでこうなったのだ、娘を返せ、と。お母様の中で、私は娘を殺してその皮をかぶった化け物でしかない」
嗚咽を堪えるように彼女は語り続けます。
「これまでずっと我慢してきた。いつか元のお母様に戻ってくれると信じていたのに、お母様は私を否定する。みんなと同じよ。お母様の言葉にも、町の人達の視線にも耐えられない」
「ねぇ、落ち着いて」
もう何年も前からフィオナの母親は心を病んで、別の町の病院に入院しています。幼い頃からフィオナへ対する悪い噂のせいで彼女の母は追い詰められてしまったのでしょう。
でも町の人達はそれさえもフィオナの呪いだと言いました。
あまりにも身勝手なその言い分を思い返すだけでも嫌な感情が込み上げてきます。
「大丈夫よフィオナ、私がついているから」
ですが、フィオナの肩に触れようとした手はぱしりと跳ね返されてしまいました。
予想よりも強い力で、確かな拒絶を感じて私は息を呑みました。
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