6人が本棚に入れています
本棚に追加
それは悪夢という名の現実だった。
その山小屋で寝ていた六人が、それぞれを見比べていた。
「一人多くないか?」
「多いって誰がだよ。皆知ってる顔だぞ」
「藤堂明」
最初に疑問を呈した者が自分の名前を言った。
つまり名前を言わない者、言っても知らない名前の者が紛れ込んだ誰かという事。
「佐藤武」
「秋葉千絵」
「高橋正治」
「北条康太」
「園部仁美」
他の皆も名前を言った。
皆、大学のオカルト研究会の仲間だ。
間違いなく感じる違和感と、間違いなく知っている顔と名前。
誰も知っている。誰なのか分からない。
一人が、剃刀を持っていた。
折り畳み式の直刃剃刀、ただし柄も刃も70cmはある巨大な剃刀を両手で握っている。
「なんだそれ?」
言うと同時に藤堂明の首が飛んだ。
振り抜いた巨大剃刀と血飛沫と悲鳴。
そこで目が覚めた。
「……夢か」
呟いた佐藤武は、また夢と同じ悲鳴を聞く事になる。
仲間たちの悲鳴、隣には藤堂明の身体と藤堂明の首。
身体からはまだドクドクと血が噴き出し、首からも血が流れ出ている。
「うああぁああ!」
藤堂明の血に塗れた佐藤武も悲鳴を上げた。
それはいつもの検証だった。
いつもの様に何も起こらず失敗して、牛丼屋のカウンターに並んで座り「またガセネタだ」「本物はないのか」と牛丼を頬張りながら難癖をつけ合って、笑ってさよならするはずだった。
ある山小屋で一晩寝ると夢に殺される。
それがこの山小屋にまつわる都市伝説だった。
その山小屋で、皆で雑魚寝した。
そして検証は成功し、藤堂明は殺された。
「なんだよこれ、誰がやったんだよ」
と高橋正治が叫ぶ。
「外から誰か入ってきたの?」
と園部仁美が震える。
打ち捨てられた山小屋、ドアに鍵なんてない。
頼りない板が一枚あるだけだ。
「外に誰か居たら私達も殺されちゃうよ」
と秋葉千絵が戦慄する。
高橋正治がその声に反応し、壁の古びた手斧を取って、腰の引けた構えを見せる。
「そんな事言ってる場合か?早く救急車」
と北条康太が言う。
「間に合うわけないだろ!」
と高橋正治が怒鳴る。
「どっちにしろ警察だ、警察に電話だよ」
佐藤武が精一杯に保った理性で言った。
人里離れた山奥だったが、幸い電波は繋がった。
最初のコメントを投稿しよう!