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通報後は、二つの藤堂明に毛布を掛けて、皆小屋の隅で震えているしかなかった。
さっきの夢……。
佐藤武は考えた。
あの夢で藤堂が殺されて、現実でも藤堂が殺されていた。
いや、藤堂が殺されるのを見て気絶したのだろうか?
それであんな夢を?何も覚えていない。
でも何故藤堂だけ?
剃刀を持っていた奴の顔が思い出せない。
この中に居た誰かだったと思うんだが……。
警察に保護され小屋を出る時、警官の一人が
「斬り口が綺麗すぎる」と呟くのが聞こえた。
事情聴取では個別に状況を説明した。
「それじゃあ、一緒に眠っていて、起きた時には殺されていたと?」
「はい」
「犯人は見ていない?」
「あ……はい」
夢で見ましたとは流石に言えなかった。
「うーん」
取り調べの刑事が顎に手を当て唸る。
「あの、斬り口……」
「斬り口?」
佐藤武の呟きに怪訝な顔で聞き返す刑事。
「いえ、あの小屋で警察の人が『斬り口が綺麗過ぎる』って」
「誰だ……?嫌な事を聞かせてすまなかったね」
「いえ。その、例えば……剃刀で斬った様な?」
刑事は一瞬迷った後
「いや、そんな小さな物では何度も切る事になるから、どんなに切れ味が鋭くても切断面はズタズタに……いや失礼。まあとにかく、居合切りの様に一瞬だったろう。苦しんだりはしなかったはずだよ。慰めにはならないだろうけど」
そう説明してくれた。
巨大剃刀の事を告げようかと思ったが、思い止まった。
聴取が終わり部屋を出ると、すでに皆の聴取も終わっており、何人かは親が迎えに来ていた。
佐藤武は実家を出て一人暮らし、当然迎えは来ず、一人で家路についた。
あの小屋で寝た五人が、あの小屋に一堂に会していた。
秋葉千絵
高橋正治
北条康太
園部仁美
そして佐藤武。
皆困惑顔をしている。
「私、家に帰ったはずなのに」
と秋葉千絵が言った。
「俺だって、風呂に入ってベッドに横になっていたはずだ」
と北条康太が言った。
「ここヤダよ。何でも良いから早く出ようよ」
と園部仁美が言った。
皆がその声に同意する。
ドアの一番近くに居た者がドアを開け、外に立てかけてあった巨大剃刀を取り出し、二番目に居た秋葉千絵を頭から真っ二つに両断した。
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