夢の中へ

3/13
前へ
/13ページ
次へ
通報後は、二つの藤堂明に毛布を掛けて、皆小屋の隅で震えているしかなかった。 さっきの夢……。 佐藤武は考えた。 あの夢で藤堂が殺されて、現実でも藤堂が殺されていた。 いや、藤堂が殺されるのを見て気絶したのだろうか? それであんな夢を?何も覚えていない。 でも何故藤堂だけ? 剃刀を持っていた奴の顔が思い出せない。 この中に居た誰かだったと思うんだが……。 警察に保護され小屋を出る時、警官の一人が 「斬り口が綺麗すぎる」と呟くのが聞こえた。 事情聴取では個別に状況を説明した。 「それじゃあ、一緒に眠っていて、起きた時には殺されていたと?」 「はい」 「犯人は見ていない?」 「あ……はい」 夢で見ましたとは流石に言えなかった。 「うーん」 取り調べの刑事が顎に手を当て唸る。 「あの、斬り口……」 「斬り口?」 佐藤武の呟きに怪訝な顔で聞き返す刑事。 「いえ、あの小屋で警察の人が『斬り口が綺麗過ぎる』って」 「誰だ……?嫌な事を聞かせてすまなかったね」 「いえ。その、例えば……剃刀で斬った様な?」 刑事は一瞬迷った後 「いや、そんな小さな物では何度も切る事になるから、どんなに切れ味が鋭くても切断面はズタズタに……いや失礼。まあとにかく、居合切りの様に一瞬だったろう。苦しんだりはしなかったはずだよ。慰めにはならないだろうけど」 そう説明してくれた。 巨大剃刀の事を告げようかと思ったが、思い止まった。 聴取が終わり部屋を出ると、すでに皆の聴取も終わっており、何人かは親が迎えに来ていた。 佐藤武は実家を出て一人暮らし、当然迎えは来ず、一人で家路についた。 あの小屋で寝た五人が、あの小屋に一堂に会していた。 秋葉千絵 高橋正治 北条康太 園部仁美 そして佐藤武。 皆困惑顔をしている。 「私、家に帰ったはずなのに」 と秋葉千絵が言った。 「俺だって、風呂に入ってベッドに横になっていたはずだ」 と北条康太が言った。 「ここヤダよ。何でも良いから早く出ようよ」 と園部仁美が言った。 皆がその声に同意する。 ドアの一番近くに居た者がドアを開け、外に立てかけてあった巨大剃刀を取り出し、二番目に居た秋葉千絵を頭から真っ二つに両断した。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加