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とりあえず、年末までは、大阪で大人しくしておくことにした。行き帰りの距離が長いから、佑樹が心配するんだ。結局、佑樹が、ほぼ毎週、大阪へ通ってくるという構図になってしまった。
私の申し訳なさそうな顔を見ると、そのたびに、佑樹は、頭をポンポンってしながら言うんだ。
「夏蓮は、妊婦さんだよ。二人分の命をその体に乗っけてるんだから、他の人と同じことをするのは、無理でしょ。自分の体を大切にして、愛おしむことは、赤ちゃんのためでもあるんだから。
それから、俺は、ここへ来るのが楽しみなの。だってさ、来るたびに、このお腹が大きくなっていくんだよ。赤ちゃんの元気な姿を、俺は、直接見れないし、感じられないんだからさ、週一の楽しみは、奪わないでよ。」
特別な予定がない限り佑樹は、金曜日の夜の最終の新幹線か、翌朝に大阪に着く夜行バスでやって来る。
来たら、家事でも、男手の方がいい掃除とか、普段出来ないことをいろいろやってくれる。それが終わると、一緒に買い物に出掛けてくれて、1週間分の食材や、妊婦の私には、持ち運びにくい、嵩張るものや重いものを買い込んでくれる。
「東京だと自分の車があるからいいが、ここにはないからな、移動することに関しては、少し不便だ。仕事でも、買い物でも。」
「その気持ちはわかるけど、そんな体で、運転なんてやめて欲しいよ。普段の生活でも、心配で仕方ないのに、車なんて、もっての他だからね。」
「わかってるって…。」
「本当に?夏蓮のわかってるは、怪しいからな。」
「私は、信用ないのか?」
「信用とかそういうことじゃないよ。本当にもう…。心の底から、君と赤ちゃんが心配なんだ。いつでも、すぐに駆け付けるって、今は、出来ないんだからね。」
「ごめん。こうやって、佑樹が、心配してくれることも、私に会いに来てくれることも、色々と世話を焼いてくれることも。なんだかんだ言っても、佑樹が側にいると嬉しい。」
それは、私の本音だ。離れているからこそ、会えた時に、嬉しかった。それから、佑樹の有り難みを、ものすごく感じていた。
一人なら越えられないものも、二人なら越えられる、そんな実感を心から感じていたんだ。
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