春は、もうすぐ

2/15
前へ
/264ページ
次へ
とりあえず、年末までは、大阪で大人しくしておくことにした。行き帰りの距離が長いから、佑樹が心配するんだ。結局、佑樹が、ほぼ毎週、大阪へ通ってくるという構図になってしまった。 私の申し訳なさそうな顔を見ると、そのたびに、佑樹は、頭をポンポンってしながら言うんだ。 「夏蓮は、妊婦さんだよ。二人分の命をその体に乗っけてるんだから、他の人と同じことをするのは、無理でしょ。自分の体を大切にして、愛おしむことは、赤ちゃんのためでもあるんだから。 それから、俺は、ここへ来るのが楽しみなの。だってさ、来るたびに、このお腹が大きくなっていくんだよ。赤ちゃんの元気な姿を、俺は、直接見れないし、感じられないんだからさ、週一の楽しみは、奪わないでよ。」 特別な予定がない限り佑樹は、金曜日の夜の最終の新幹線か、翌朝に大阪に着く夜行バスでやって来る。 来たら、家事でも、男手の方がいい掃除とか、普段出来ないことをいろいろやってくれる。それが終わると、一緒に買い物に出掛けてくれて、1週間分の食材や、妊婦の私には、持ち運びにくい、嵩張るものや重いものを買い込んでくれる。 「東京だと自分の車があるからいいが、ここにはないからな、移動することに関しては、少し不便だ。仕事でも、買い物でも。」 「その気持ちはわかるけど、そんな体で、運転なんてやめて欲しいよ。普段の生活でも、心配で仕方ないのに、車なんて、もっての他だからね。」 「わかってるって…。」 「本当に?夏蓮のわかってるは、怪しいからな。」 「私は、信用ないのか?」 「信用とかそういうことじゃないよ。本当にもう…。心の底から、君と赤ちゃんが心配なんだ。いつでも、すぐに駆け付けるって、今は、出来ないんだからね。」 「ごめん。こうやって、佑樹が、心配してくれることも、私に会いに来てくれることも、色々と世話を焼いてくれることも。なんだかんだ言っても、佑樹が側にいると嬉しい。」 それは、私の本音だ。離れているからこそ、会えた時に、嬉しかった。それから、佑樹の有り難みを、ものすごく感じていた。 一人なら越えられないものも、二人なら越えられる、そんな実感を心から感じていたんだ。
/264ページ

最初のコメントを投稿しよう!

273人が本棚に入れています
本棚に追加