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それは、3月最後の日の朝のこと。
「おはよう!お母さん!」
ダイニングに走り込む私に、お母さんの雷が落ちる。
「夏蓮!もうすぐ、お嫁に行くのに、そんなんじゃダメでしょう!もうちょっと、落ち着きなさい!」
「…ごめんなさい。…えっ?…お父様、どうなさったんですか!」
朝食の席にいつもとは違う姿のお父様が、座っていた。
「おはよう、夏蓮。…ああ、まだ夏蓮には話してなかったな。
4月から、社に復帰することになったんだ。今日は、挨拶を兼ねて、打ち合わせだよ。」
「復帰って…。」
「まあ、復帰といっても、前のように、現場へ出ての仕事は減るから、安心しなさい。」
「安心って…そんなの出来ません。お医者様は、なんと仰ってるんですか?」
「母さんより、夏蓮の方が、厳しいな。
大丈夫だよ。きちんと薬を飲んで、定期的に受診する約束はしたし、先生も、家に籠っているよりも、気分転換になっていいんじゃないかって。」
「そんな…気分転換だけで、お仕事なんて…私、認められません。」
「まあ、そう言うな。気分転換くらいの軽い気持ちで、受けたわけじゃないよ、今度の話は。
私達は、次世代への布石を打たなくてはならないんだ。
社を大きくするために、やって来たことで、生じている歪みは、直さなきゃならない。放って置いたら後々、後を継ぐ者達が、苦労するだろう種を今の内に回収しておかなくてはならないんだ。…それは、夏蓮や佑樹君のためでもあるんだよ。
私も、そこそこ、いい年齢だ。倒れてから、無理も出来なくなっている。だから、やれることは、限られてくるが、それでも、やらなきゃならないんだ。
2年だ。2年で役目を終える…だから、目を瞑ってくれ、夏蓮。」
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