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「やあ、佑樹君、おはよう。」
「おは…えっ?!ええっ?!なんで、お父さんが、一緒なの?!」
社の玄関で、肩を叩かれて、振り向いた佑樹は、予想外の人物の登場に、あたふたしていた。
驚く佑樹の顔を見て、楽しそうな顔をしているお父様に、私は、ちょっと呆れていた。
そして、佑樹の声に反応した何人かの社員が、こちらを怪訝な顔で見ている。
「佑樹、詳しい話は、後だ。みんなが、見ているぞ。ここで、騒ぐのは、よくない。」
「ああ…ごめん。」
佑樹は、私の言ってることがわかったようで、すぐに謝ってくれた。
「お父様は、社長と小早川専務に、会いにいらしたんだ。」
「…小早川専務。」
「露骨に嫌そうな顔をするな。あの人は、人を食った物言いはするが、悪い人じゃない。」
「…わかってるけど。」
「佑樹君、君も一緒に行くかね?」
「えっと…。」
何の用で、小早川専務のところへいくのか、あの顔は、絶対、気になってる。だけど、もうすぐ始業時間だからな…。
「東山には、私から、話すし、謝ってやるから気にするな。
タイムレコーダーに、ID通すのは、上の階でやってやる。」
「ありがとう。夏蓮。」
私達は、社屋の最上階まで、エレベーターで上がっていった。
「…最上階は、初めて降りるよ、俺。」
「当たり前でしょ…ここは、私だって、数えるほどしか来たことないんだから。」
最上階のフロアは、会長室、社長室、副社長室の3つしかない。
ひとつ下の階にある重役フロアでさえ、滅多なことでは、上がってくることがないのだから、ここへ、来るはずもない。
「ねえ、夏蓮。俺、場違いじゃないのかな…。」
小さな声で聞くから、私も、小さく答える。
「ここまで来て、何言ってるの。お父様が、悪いようにはなさらないから、安心なさい。」
「…そうだね。うん。俺、もう大丈夫。」
佑樹は、何か、気持ちのケジメを着けたみたい。
切り替えの早さも、営業マンには、必修な条件だわ。佑樹に、合格点あげなくちゃね。
思わずそんなことを、考えていた。
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