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佑樹が佐野と、今日のことで、そんな会話を交わしていた頃、私は、入社式の準備で忙しかった。
準備出来たものを持って、ロビーへ降りてくると、さっきまでの喧騒はなんだったのかと言うくらい静かだ。
それは、そうか…もうすぐ始業の時間だし、今日は、年度始めだから、全館放送で、会長と社長からの訓示があるものな。
自分達の想定外の人事異動だったし、みんなが、不安に思うのも仕方ない。
新しい会社の代表者が、どんなことを自分達に訴えるのか、気になるところだ。まさしく…。
さて、私は、私の仕事をしなくてはな。新入社員達がやって来る前に、準備を終えなくては…閑散としたロビーが、もうすぐ黄色い嘴のヒヨコどもで、占められるからな。その前にだ。
「有栖川さん、これ、どこに置けばいいんですか?」
「ああ、それは、この辺りにセッティングしてくれるか。」
「わかりました。」
「片倉、名簿の用意は出来てるか?」
「大丈夫です。受付関係は、俺が責任持ってやりますから。」
「頼んだぞ。ハンドスピーカーは?」
「ここにあります。」
「了解。…三上、案内役頼んだぞ。私は、上の準備の確認に行ってくる。後で、もう1回下りてくるから。」
「わかりました。」
今日の私は、入社式の責任者だから、朝早くから、気が張っていた。
エレベーターに乗って、誰もいないのを確認して、体をだらけさせる。
ほんの一瞬だけど、こうでもしないと、気持ちが続かないんだ。
管理職って、こんなにも、精神力や根気が必要で、気苦労の連続なのかな…。
頭に、お父様の顔が浮かんだ。
お父様は、こんな気持ちを、沢山沢山重ねて、今の地位にいらっしゃるんだろうな…。
ふぅ~。
息を思いきり吐く。顔を上げて、頬を軽く叩く。
夏蓮。上を目指すなら、もっとしっかりしなきゃだめよ。佑樹のためにも、私自身のためにも、頑張らなきゃ。
エレベーターの扉が開いたとき、そこには、部長補佐の顔をした私がいた。
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