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大阪に戻った私は、佑樹のお姉さんに言われたことを頭に置いて、とにかく春まで、私とお腹の赤ちゃんの健康第一で、頑張るしかない。
「有栖川君。ちょっと、来て。」
「はい、なんでしょうか。」
「昨日、急いで上げてもらった資料なんだが、申し訳ない。私のミスだ。渡した資料が、間違っていたんだ。それで、この部分、数字が違ってるんだ。悪いが昼までに直し出来るかな?」
「それくらいなら、1時間もあれば大丈夫です。」
「助かるよ。事務の女の子に頼むと、時間は掛かるし、手直しを言っただけで睨まれるんだ。」
「部長も、形無しですね。」
「ハハハ、面目ない。」
部長は、苦笑いしながら、頭を掻いてる。
デスクに戻って、昨日のファイルを探して、手直しを始めた。
事務椅子に座ったまま、足で漕いで、ツツーゥと、側に寄ってきた日向さんは、小声で言った。
「部長、お前にかなり気を使ってくれてるぞ。本社からの預りものだし、社長令嬢だからな。もし、万が一にも、お前が倒れたり、お腹の赤ちゃんになんかあったら、責任問われるとでも思ってるんじゃないかな。」
「…関係ない。私は、私だ。」
カチャカチャカチャカチャ…
キーボードを打ちながら、返事をする。
「冷静だね。」
「常に冷静にならないと、やっていけないよ。それに、私は、やれることをやるだけだし、今は、指示を出す側じゃなくて、出される側だ。嫌だなんて言える立場でもないしな。」
「それでいいの?」
「まだ、安定期じゃないから、無理できないし、体は怠いし、悪阻は辛いし…本音を言えば、部屋で出来る仕事を振ってもらえて助かってるよ。」
「ふ~ん。そう言うもの。」
「そう言うものよ。それより、城内食品さんへ、行かなくていいの?」
「あっ!ヤバイ!教えてくれて、Thank You!」
日向さんって、しっかり者なのか、それとも…天然?
ここへ来てから、私が知っていた日向さんとは違う顔を沢山見ている。人は一面では計れないということを、改めて、彼で学んだ。それだけでも、ここへ来た甲斐があると言うものだ。
私は、研修後のレポートに、そのことを加えようと、頭の片隅にメモをした。
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