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年度末の3月は、営業部全体が落ち着かない。それはそうだ。年度末決算で、誰も彼もが、殺気立ってるからだ。
締め切り日までに、営業成績をどれだけ上乗せできるか、収益を上げられるか、そこは、営業マンの腕の見せどころだ。
これで、一年間の成果が報われるか、そうでないか、人事や賃金に関わってくることだから、いやが上にも、みんなのテンションは、上がざるを得ないし、力が入る。
「…うん、まずまずってところだな。」
営業部長の種田は、上がってきた収支決算書類に目を通して、少しばかり、ほっとしていた。
「有栖川君、君も目を通しておきなさい。」
「はい、部長。」
種田部長は、自分の見ていた書類を、私に手渡した後、キャビネットを覗き込んで、別の書類を取り出した。
「有栖川君。これ、去年の分ね。企画1課の売上、かなり上がってるのが、それと対比するとよくわかるよ。梶尾君、頑張ったみたいだね。」
ニコッと笑って種田部長は、資料を手渡してくれた。
「ありがとうございます。」
佑樹が誉められると、私は、自分が誉められるよりも、ずっと嬉しい。
実際、佑樹は、私が思っていた以上に営業の結果を残してくれていたのだから。
未来の旦那様は、営業マンとして、将来有望だわ。…まあ、私は、知ってたけど。
窓から見える桜の枝には、膨らんだ薄桃の蕾が、春がもうそこまで来ていることを教えてくれていた。
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