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「周防くん」
「は、はいッ!」
女子の呼吸が感じる距離だなんてそうそう体験出来るもんじゃない。なのに極寒マジックで明らかに目に見える物へと姿を変えた白モクモクが、何度も俺の顔を撫でた。目と目は合ったままだったけど、彼女に掴まれた腕が鉄骨でも入っているんじゃなかろうかと思ってしまうくらいに硬直していた。近づいてくる半開きの唇がまるで天ぷらを食った後みたいにプルンと艶やかで、背中から頭のてっぺんへ向けてブルッと震える熱いビッグウエーブが駆け抜けた。
「やっぱりそうだー、周防くん鼻水出てるよー?」
「えっ」
「ハナタレ小僧、確保おおーーーっっ!」
ポカンとマヌケに立ち尽くす俺の顔に、火照りを冷ます寒風がブチ当たる。勝手な想像でホット化していた体に、残念と言う名の北風が容赦ない張り手をした。
俺はバカかよ。
なに意識してんだハズカシイ。
迫力の雄叫びとかさ。彼女はいつものカス玉女子のままやん。見掛けは白モフモフで可愛いのになんてモッタイナイ女なんだ。
腕を掴まれ強引に彼女に引っ張られている俺。無気力化した心と体が、一生懸命ジャージの袖を引っ張る片桐にお供した。どこに連れて行くんだろ、まったく。ちょっぴり苦笑いをしながら素直に歩いた。
「あつっ、がっ、めっちゃアツ!」
「火傷するよ? ゆっくり食べなよー」
「あんこに負けた気分になるからヤダ」
「あんこに勝っても賞状出ないよー?」
「だ、だだだだってさ、熱いうちに食わねえと勿体ないやん」
恥ずかしいじゃねえかよ。言ってる内容は変なのに激しく正論を言われたらさ。そう負け惜しみをボヤキながら、唇にへばりついたアツアツあんこを親指の付け根で拭った。
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