おまえに言いたい事がある。

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 ひとくち、ふたくちと、ほっかほかにかぶりつく。厚めの皮クッションに震えていた唇がめり込んだ。口先をシットリと包み込み密着した後、寒さで硬直していた全身にホッコリが行き渡る。鼻から出入りする甘い香りは冬将軍よりも力強く、寒い寒いの一辺倒でカチカチに凍り付いていた頭の中が、フニャリと腰砕けながらとろけていく気がした。  なんとなく『あんまんはオッパイ』の意味がわかった気がした。  あんまんもオッパイも、安らぎを感じるって事なんだろうなあ。『フワフワ』と『甘い』のコラボは冬将軍に打ち勝つアイテムだな、あんまん最強ーー!  ってのを考えながら幸福に満たされつつあんまんを食っていますだなんて、もちろん隣の女には言ってない。むしろ、さっさと片桐美羽ワールドに浸っていた。 「周防くん周防くん。この猫、あんまん食べるかなあ」  このクソ寒いのにどこから来たのか白い猫が。いつもコンビニから出てきた客を狙い、おねだりの甘い鳴き声でおこぼれを頂くのに慣れてる感じの猫だった。 「周防くん、外側の部分だけやったら食べたよ。可愛いねえ」 「ねえねえ周防くん、この猫、だっこ出来るかなあ」 「周防くん周防くん! ほらだっこ、だっこ出来た!」 「周防くんほら、ニャーン! 周防くんニャーン!」  猫、暴れてますよ。  だれが見ても抱かれて嫌がっている猫なのに、彼女は無邪気に我が道を爆走していた。  最初は、この猫野郎、片桐美羽に甘えてオイシイとこを持っていってクッソ羨ましいとか、あーもう猫猫周防周防ってうるせー、と思っていた。  けどな、俺、気づいたんだ。 「周防くん、猫、好き? ねえ、好き?」 「好き」 「私も好き! えへへ、同じだねえ!」  いちいち俺の名前を呼び笑顔で猫アピールしている彼女は、2人きりのこの場を盛り上げようと必死にはしゃいでいるってことに。  この時の片桐美羽は、とてもわかりやすかった。寒さの中で俺が退屈しないようにと健気に道化を貫いていたんだ。だって、だっこしてんの、めっちゃ下手くそだったんだ。慣れてないやん、コイツって。  鼻水をたらしていたのも、こんな遅くに待ち合わせをさせてしまったのも俺のせいなのに。
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