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一 ストーブ
土曜日の朝、寝坊ぎみに起きてきたら、パパが押し入れから出してきたガス・ストーブを、おばあちゃんがせっせと掃除している。
「ちゃんと煤(すす)はらいしてから使わないと、たまったホコリに引火して火事になることが多いんだってよ」
そう言いながら、こまかいところまで、チリやホコリをおとしている。それがおわると、おばあちゃんは、忙しい感じに身支度をして、家を出ていった。
「どこ行ったの? おばあちゃん」
ひとりだけ遅い朝ごはんを食べながら私がママに尋ねた。
「え? 知らなかった? 亜美」
「うん」
「今月から、近くの高齢者施設に行ってるんだよ」
「え? おばあちゃん、施設に入ったの?」
「何、言ってんの。おばあちゃんはウチにいるじゃない」
「そうだけど。じゃあ、何?」
「施設のお年寄りのお世話をするんだって」
「おばあちゃんが、よその、おばあさんやおじいさんの世話をするってこと?」
「そう」
「え? 何歳(いくつ)だっけ、うちのおばあちゃん」
私がそう尋ねると、それに答えてパパが言った。
「七十八」
するとそれを受けてママが言った。
「いまは八十前なんて、年寄りのうちに入らない。施設には八十代、九十代の人がおおぜいいる。すこしでもお役に立てるなら、こんなにありがたいことはない……そう言って、毎朝ああやって出ていくのよ」
「毎朝!?」
「そう、亜美が学校に行ってから出ていって、帰ってくるときには、もうウチにいるから気がつかなかったんでしょうけど」
「すごいね」
私はそう言って、トーストしてもらった食パンをほおばった。
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