第二十八の扉「ムーンストーンの記憶」前篇

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二 出会い  思えば、月渚と出会って、もう七年になる。  それは私が、小学六年生のときのことだった。 「月渚」と書いて「るな」と読む、そんな名前の転校生が、おなじクラスに入ってきた。彼女は家族の仕事の都合で長いことフランスに住んでいて、小学校もフランスの学校に通っていた。フランスの小学校は六月で卒業するそうで、だから、彼女が転校してきたときは、本当はもう小学校は卒業していて、それでも日本の学校になじんだほうがいいだろうという両親の意向から、小学校に入り直すことにしたそうだ。だから、彼女……月渚は、学年はおなじでも、歳は私よりひとつ上だった。  ウ・エ・ティル? ウ・エ・ティル?  彼女は私の前で、そんな、おまじないの言葉みたいなことを口にした。  なんだろう? と思って聞いてみたら、「ウ・エ・ティル?」というのはフランス語で、「それは、どこですか? どこにありますか?」という意味だと教えてくれた。何かさがしものをしているときなどに、失くしたものをイメージして、その言葉を唱えると、それがどこにあるか教えてくれるという。 「誰が教えてくれるの?」と彼女に聞いたら、「失くしたものが」と答える。それは、本当は「失くした」のではなくて、「どこかにあるのに見つけてもらえない」だけだから、どこにあるの?って尋ねると、自分の居場所を教えてくれるのだと。
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