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目を開けると、そこには月の青白い光りを受け、神秘のヴェールに包まれた光莉(あかり)の姿があった。
黒曜の瞳、白くなめらかな肌、そして濡れた赤い唇。
ぼくより少し遅れて瞼を上げた光莉の全てが、輝く銀色の粒子を散りばめたかのように輝いて見えた。
その美しさに思わず目を細めたぼくの前で、光莉が顔をわずかに下に俯けた。
どうやら光莉はぼくとの初めてのキスを恥じらっているらしい。
そう思ったぼくは、これまでよりも光莉を愛しいものに感じた。
「寒くない?」
分厚い服の下の体はどうしようもなく火照っている。
けれど剥き出しの顔に触れる外気は刺すように冷たく、2人の息を白く染めている。
「大丈夫。叡太郎(えいたろう)君と一緒だから」
ぼくの問いに光莉は間髪入れずに答えた。
それはまるで、ぼくがそう問いかけるのを早くから予測出来ていたかのように、そしてぼくに問いかけられたらそう答えようと決めていたかのように、光莉は即答してみせた。
ーー大丈夫、一緒だから、寒くない。
ぼくは無意識のうちに光莉の言葉を頭の中で反芻していた。
そして何故か縋るように光莉を抱きしめていた。
ぼくの胸に顔を埋める光莉は、ぼくの腕の中でこんなにも小さくて儚い。
けれど今、本当に真実その身に抱かれているのは自分のほうだと、ぼくは光莉を抱きしめながら思った。
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