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①
責められている気がした。
先に逝かせてしまったおまえの母親に。
そんな気がしてしまった。
叱られている気がした。
おまえに。
何をしているんだと。
言い訳みたいだけど、この店の前のポスターを見たから入ったんだからな。
接待以外で、キャバクラやクラブも行ったことはないぞ。
おまえの法事といっても、おまえのことをきちんと認めようともしなかった私の親戚なんて必要ないと思ったから、一人で祈った、謝った。
呑みすぎたのは、巡ったいろいろな後悔のせいだと思う。
だからかな、この店の前のポスターを見たとき、おまえかと思った。
あの日の、針の筵の上を歩かせたようなこの国での結婚式の日の、白いドレスのおまえかと。
親族の誰一人、桜蘭との結婚を賛成はしなかった。
ただ母だけが認めてくれた。
それでいいと私は思ったけれど、世間体だけで開かれた結婚式がおまえはどんなに辛かっただろう。
異国の地で家族も友人もなく、冷たい視線の中を歩くバージンロード。
おまえに、あの白いドレスを着せると決めたのは私だ。
台湾で私にむかって湯飲みを投げつけてきた桜蘭の母への、あてつけの気持ちもあったのかもしれない。日本で美しい白いドレスで幸せそうに微笑む娘を見ろと。
しかし、桜蘭は式の日、終始戸惑いを浮かべていた。笑顔の下にも常に微かに。
アルバムにある私と並んだ写真ではなく、少し斜め下を見ていた白いドレスのおまえの写真を見る度に、おまえを台湾から連れて帰ってきたことを少し後悔した。
挙げ句の果てに、仕事の忙しさにかまけてずっと一人に。
家族も友も捨てて、ただ私に付いて来てくれたおまえは、日本で私と過ごした時間よりも、私の母と過ごした時間の方が長くなってしまったね。
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