あの子と拳銃

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目を開けると、そこには一挺の拳銃があった。とりあえずそれを手に取ってみた。 軽い。実際の拳銃は、そこそこの重みを持っていると聞いたことがある。しかし、手にしたこれはあまりにも軽い。 幼少期に触ったエアガンのような重さだ。よく見ると、材質も安っぽい。これが実銃でないことは明らかであった。 「おはよう」 どこからともなく、挨拶が聞こえた。俺はその声に返事をすることなく、拳銃を注意深く観察した。奇抜なデザインをしている。真っ白な地にピンク色のハートマークが、所狭しと描かれている。この銃を創った人間の、芸術的センスの欠如がうかがえる。 「あれ? この流れで普通無視する?」 またどこかから声が聞こえたので、仕方なく返事をすることにした。 「俺は挨拶が嫌いだ。挨拶をすることによる利益が見出せないからだ。早起きは三文の得ということわざがあるが、あれはおおよそ正しいだろう。早起きした分だけ有効利用できる時間が増えるのだから、三文以上の得はあると思う。しかし、挨拶はどうだろうか。挨拶をしたところで何文の得にもならないし、むしろその挨拶にかかる時間分は損をしている。 よって、俺は挨拶をしない」 「いや、挨拶を返してほしかった訳じゃないんだけど……。というか、そう長々と理由を述べるくらいなら、おはようと一言返してしまったほうが時間的に損しないと思うよ」 「センスがないな。俺が一度この理由を言うことで、この先何百、何千回と遭遇するかもしれない挨拶の機会を消滅させることができるのだ。誰だか知らんが、もっと長期的な目を持てよ」 俺がこう言うと、謎の声の主は、「そんなだから……」とつぶやき、さらに続けた。 「君はもっと視野を広く持とうよ。例えば、『この部屋はなんだろう』とか、『この声の主は誰だろう』とか、拳銃以外にも君の周りは不思議が溢れているでしょ?」 「お前に関して言えば、クソほどの興味もない」 「私への関心クソ未満なんだ!?」 事実として、この場において一番興味がないのは、この声の主なのだ。
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