電話越しの声

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――あと二年か・・・。 特に用もなく声が聞きたいからという理由だけで電話したり、 まして、甘い言葉を交わし合うような、俺たちではない。 口下手だからと、時々手紙をよこすあいつが、電話してきたことは、一度もない。 ーー次はいつ、あの声が聞けるだろうか・・・? 朝日を浴びながら微笑む、電話越しの君を思い浮かべながら、 狭いベッドに横になり高い天井を見上げて、 いつものように『おやすみ』と、その残像に 一人 心の中で呟く。 彼女に触れることの出来ない、この距離に、 胸の奥につかえた熱い塊を吐き出すように、 ハッ、と、短い溜め息を一つ吐いた。 全開にした窓から、ぬるい風が、記憶に刻み込まれた同じ香りの白い煙の筋を、この狭い部屋にくねるように漂い散らす。 ぼんやりとそれを眺めながら、 フランスの夏は、まだまだ暑くなりそうだな、と、 ケータイを握り締めたままの拳で、額の汗を拭った。 fin
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