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ママのお姉さん、つまり伯母は旭川の三、六街でスナックを経営している。女優みたいな顔立ちで、未亡人になってしまったために水商売を始めていた。でも千紗は伯母上様にも叱られるといけないから、下川町で、小さなスナックを経営している祖母の所へと旭川から士別へ行き、友達の車で送って貰うことにした。お祖母ちゃんの住んでいる下川町はJRになってから廃線となってしまった。駅前にスナックはあるのだが、地形がわからなくなったとママと嘆いたことがあったが、お祖母ちゃんは高齢なのに元気良く、現役バリバリ「夜の蝶じゃなくて 蛾だね。」と、見た目はそんなもんだと笑っている。スナック『チワワ』のママじゃなくてババだからといつもジョークを常連さんたちに言っている。小さな街で、昔は銅山が山奥にあり、栄えた時代もあったが、堀尽くしてしまったようだ。お祖父ちゃんが他界してから何かまたやってみたいと札幌から、この街に帰ってきてしまっていた。千紗はママから聞いた幼い頃のクリスマスの話を思い出していた。このままお祖母ちゃんの家まで逃亡しようと決意した。クリスマスまでステイさせて貰おう。派遣はあんなことがあったから、とても戻れない。一身上の都合だけではまずいかなと、病の祖母の介護のためとした。全然ピンピンしているお祖母ちゃんなんだけど、夜の蝶の着ぐるみをまとった蛾なのである。士別の同級生の小百合ちゃんにも昨夜の出来事を聞いてもらい、下川に着いた。もう夜になっていて、『チワワ』のお店のドアを開けた。お祖母ちゃんには何も連絡せずに行ってしまい、まだお客さんがママの同級生しかいなかったので、「おばあちゃん、聞いて。」とワンワンとチワワみたいに泣いてしまった。「どうしたんだい。またママと喧嘩でもしたのかい。それともカレシにフラレたのかい。」と宝物の孫を抱き締めた。「そんなに泣いたらいい女が台無しだよ。」と温かい下川での夜が始まっていた。
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