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星を見に行こう。
それは僕にとって、星好きである君を誘うときによく使う言葉だった。
初めてのデートの誘いでも、僕はその言葉を君に言った。
すると君は頷いて、笑顔で、星を見に行こうと、そう僕の言葉を繰り返した。
でも結局、僕らは星を見ることができなかった。
出掛けた夜、空は曇っていた。
私、曇り女なんだ。いざ見ようって出掛けると、いつもこう。
星の見えない空を見上げて、君はそう言った。
その様子がとても寂しそうで、僕は、次があるよと君を励ました。
だけどその後何度星を見るために出掛けても、見上げる夜空はいつも曇り空。星の姿はひとつも見えなかった。
でもだからこそ一層、星を見に行こう――その言葉は、君を誘うための言葉であり続けた。
ただ、あるときから、星を見に行こう――その言葉を僕は本気では言わなくなった。
その場を取り繕うような、そういうことのために、僕はその言葉を君に言うようになった。
すると君の方も、星を見に行こう――以前はそう、僕の言葉をよくおうむ返ししてきたのに、それがなくなった。
寂しそうな笑みで、そうだね、と言ってくるだけで。
そうして、星を見に行こう――僕はもうその言葉を言わない。
だって、君はもう傍にいないから。
だから言わないし、星を見にわざわざ出掛けることもない。
それなのに――。
目を開けると、そこには満天の星。
その状況に、僕はとても戸惑った。
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