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☆
星を見に行こう。
もう君は傍にいないから、その言葉を僕はもう言わない――そのはずだった。
いや確かに、君がいなくなってから僕はその言葉を口に出してはいない。
でも、君がいなくなってから半年が過ぎて、僕はふとその言葉を思った。
そして僕は出掛けることにした。頭の中で紡がれたその言葉に誘われて。
しかしそう思い立ったのは、冬の夜のことだ。易々とは出掛けられない。
厚手のモッズコートを着た。マフラーを首に巻いた。手袋はコートのポケットに突っ込んだ。そうやって防寒の備えを万全にしてから、僕は一人きりだった部屋を出て、車に乗り込んだ。
初めは冷えていたエンジンは、高速に入る頃には温まった。同じ頃に車内も温まり、暑くなってマフラーを外した。
そんなこともありながら、高速に入っておよそ二時間。昼間と比べて格段に車の少ない道路を北へと走って至ったのは、初めて訪れるインターだった。
東北地方の某所にあるそのインターから高速を降り、そこから更に車を走らせて向かったのは、君と行こうと約束していた星見のスポット。
星好きにもあまり知られてない、穴場のスポットなのだと君は僕に教えてくれた。そのときの君を思い出せば、ハンドルを握る手には知らず力がこもっていた。
そして、高速を降りてから三十分。走るほどに周りには光が少なくなっていった道のりの果て、たどり着いたのは、近くには、店はおろか人家もほとんどないような静かな場所で。
ナビによってそこへと導かれた僕は、他に車の姿のない砂利敷きの駐車場に車を止めると、マフラーを首に巻き直し、ポケットから出した手袋を手にはめた。それでも車の外は寒く、体を縮めて歩きだした。
静かな駐車場には、僕が一歩進む度に砂利が擦れる音が鳴り、その音を聞きながら進んだ駐車場を出るとすぐ、小さな橋があった。
その橋を、下を流れる川の音を聴きながら僕は渡った。次は、橋の先にあった緩やかな傾斜のついた坂を上った。
そうしてたどり着いた場所は、目線の高さより上は全方位、視界が開けていて、視線を下げれば、近いところに木立の陰、遠くには田畑が広がり、その中にぽつぽつと人家のものらしき明かりが見えた。
僕は空を見上げた。そして息を吐いた。
その息は夜空を背景に白く舞い、すぐに消えた。
空は、曇っていた。星は、見えなかった。
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