星を見に行こう

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「さて、いま挙げたものの中で、実際にいま空に見えるものはどれでしょう?」  この言い方――また既視感。  でも、わからない。  既視感をおぼえても、いつどこで彼女と会ったのか、それがわからない。思いだせない。 「空見ないと、答え、わからないと思うよ?」  そう言われても、空を見る気にはなれなかった。  彼女をじっと見つめ、そうしながら頭の中の記憶のあちらこちらをひっくり返して思いだそうとする。  そのうちふと、彼女が着ているコートが気になった。さっきまではまったく気にならなかったのに、なぜか急に。  暗いせいで色はわからなかったけれど、襟や袖の形、それから全体の形も、どこかで見たことがある気がした。  でもやっぱり、そこまでだ。どこかで、とは思うけれど、どこで見たのかまでは思いだせない。 「わからないって聞いてたのにな」  彼女がそう、ぽつりと言った。  コートから彼女の顔に視線を戻す。彼女と目が合った。すると彼女は少し困ったように微笑み、視線を下げた。  その視線の動きに釣られて視線を下げると、彼女の手がこちらに伸びてくる――それが見えた。  伸びてきた彼女の手は、膝に置いていた僕の手の甲に触れた。が、そこで動きは止まらず、彼女の親指が僕の手の親指と人差し指の間に入り込んでくる。残った四本の指は僕の小指の外側に動き、彼女は僕の手を握った。  彼女は手袋をしていなかったけれど、僕は手袋をしていたから、そうされても、握られた感覚はあっても、体温を感じることはなかった。  彼女は重なった自分の手と僕の手に視線を落としたまま、小さな声で言った。 「名前を教えたって、顔を見せたって、思い出話をしたって、何をしたってわからないって言われたのにな。直接触れないと思いださないって言われたのにな」  ひとり言のような彼女のその言葉を聞いて、僕は眉間に皺を寄せた。  何を言っているんだろう? と思った。それから、言われたって誰に? と、そうも思った。  そのうちまた、彼女の手が動き始めた。彼女の指が、手首の方へと伸びてくる。  伸びてきた指は手袋の裾を通りすぎ、そして、素肌の手首に触れてきた。  その瞬間、急に何かが動き始めた。それを僕は、自分の中に感じていた。
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