とある豪華な屋敷にて

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「ここか」  一見して値が張ることがわかるスーツと時計を身につけた年若い一人の男は、鼻を鳴らすとそう言った。  彼は昨夜この屋敷で催されたパーティに招かれた客だ。親から会社を一つ任されていて、そのためか自尊心が強い。  彼は広い廊下からその部屋の惨状を、他人事のように――実際彼にとっては他人事なのだが――眺めていた。  彼の隣には身長は低いものの背筋はしっかりと伸びている老いた執事が、開けたドアを押さえ、沈痛そうな面持ちをしていた。 「ここで昨夜、私たちの主が……」  執事はこの屋敷で働いていた。今はスーツの男に案内を命じられたためにこうしている。老執事はこのような状況でも、あくまで職務に忠実だった。  スーツの男は部屋の中の高い天井を見上げる。その中心付近に一つだけ、切れた鎖がぶら下がっていた。 「あそこに、あんたの主人を押し潰したシャンデリアがあったのか」  執事は静かにうなずき、自分の知識を男に話した。 「ほぼ即死だったそうです。シャンデリアは大きさも重量もかなりありましたし、高さもありましたので……。ご覧の通り、壁に掛けられていた絵画も飛び散った破片で……」  スーツの男は床に残る血の跡と、無数に散らばり中には床や壁に突き刺さっているものもある、それ自体が凶器のようなシャンデリアの破片を、視線を巡らせて観察した。  部屋に物は少ない。先程執事が言った絵画の他には、今は壊れているが、いくつかのテーブルやイスが置かれていた。ちなみにパーティが行われたのは別の部屋だ。  しかし手入れは行き届いている。毎日掃除されているらしく、埃なども見当たらない。  執事は沈黙している男に、なおも説明をする。 「シャンデリアはもちろん形は普通でした。大きさは確かになかなかのものでしたが異常に大きいわけではありません」  それをスーツの男はうるさそうに遮った。 「見ればわかる。もうシャンデリアも片付いているが、破片は見えている。なかなか運ぶのも大変だったらしいな」  しかし、執事は俯くと最後に、なにかを悔やむように早口に呟いた。 「主はそのとき間違いなく、壁ぎわにいたのです。それなのに、シャンデリアが直撃して……」  スーツの男はその執事の様子を見ると、うんざりしたように首を横に振った。  そして呆れを含んだ声で、ため息とともに言った。
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