側にいるよ。

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葉月の笑い声。それさえ聞ければオレは安心する。 彼女は幸せになったんだ。 彼女は子供を3人儲けて家は賑やかだ。 オレはその声を聞きながらまどろむように過去へと遡る。 ━━━オレは全てを思い出していた。 物干しに吊るされていたあの時に━━━━━━ 先頭を先輩、次がオレ。後ろはおよそ山男とは呼べない後輩が続く。 奴は完全なオタク系なのに何を間違えたのか山岳部に入部した。体力もなくひょろひょろした棒男のクセに蘊蓄(うんちく)ばかり並べ立て、山登りも頭脳で出来ると思っている。 無論オレたちは容赦しない。 奴は何故かオレになついてきた。 だからオレたちはその日も3人でチームを組んで命綱を繋ぎ、岩場にトライしていた。 岩の裂け目にアンカーを打ち込みロープをかけて身体を引き揚げる。それぞれが真剣に、自らの命を懸けていた。 興味の無い者から見たら愚かしい事かもしれない。 でもオレにとっては生きる意味を知る大切な時間だった。 あの時、オレたちは死神に魅入られたんだ。
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