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帝王学園理事長室の隣
理事長の仮眠室に置かれたソファベッドに右膝を乗せ、立つよう命じられた伊織の背後から手を伸ばすのは
撫でつけた黒髪に白髪が混ざり始めた妻子ある壮年の男、帝王学園理事長花菱大介だ
「伊織、妹の学費だろうと何だろうと払うと言ってるだろう。学園中に媚態をバラまきおって、私への嫌がらせか」
大介に強い口調で詰られた伊織の翳りの滲む瞳に、戸惑いが過ぎる
そうは言われても・・・・・・
伊織と大介の関係は、財力のない伊織に代わり、毎月の授業料を肩代わりしてくれる大介に、月にニ度、伊織が身を任せる契約で成り立っているもの
契約以上の金銭を大介に求めたことはないし
大介を困らせることをしたつもりも、伊織の意識の中に存在しない
「そんな・・・・・・、嫌がらせなどではありません」
書棚に並べられた未開封の、月刊テーオーが一冊
ソファベッドの枕元に置かれたもう一冊の月刊テーオーに、折り目をつけたのは大介だろう
白く濁ったシミで汚れた雑誌に掲載された大介の言う伊織の『媚態』を見て取った伊織が困惑した表情で、首を横に振った
「雑誌クラブの仕事を頼まれ、受けただけです」
理髪店を利用せず、自分で髪を切る伊織の肩で切り揃えた黒髪が、金でしか手に入らない伊織と、大介とを隔たる川のようにふわりと揺れる
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