序章 記憶喪失

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序章 記憶喪失

 ....おい。  次は僕を呼ぶ男性の声だ。  その呼び掛けに対して自分は目を開ける。  あれ?何の事だろう.....?  既にこの時に、僕に残っているのは生きているという実感だけだった。  感覚だけは不思議と、何かがあった事を知っている。  結局分からないのだけれど…  「あんた、こんな所でどうして....」  目を開けた先には赤毛ショートの男がしゃがみ込んだ姿勢で、心配そうに自分を見て話し掛けてくる。  そして、その発言からすると恐らく此処は良いところではないのだろう。  答える前に見渡してみるが、周囲は木々に包まれている様なので森林区域だろう。  ん、正面の木々が薙ぎ倒されてるな....  大きめの獣が暴れていたのか?  「おーい、目が虚ろだぞ。生きてるかー?」  「だれ....?」  「誰はねーだろ。覚えてねーのか?  オレだよ、オレ」  新手のオレオレ詐欺師か何か?  だとしたら目覚めてから早速大迷惑なんだけど。  「本当に、覚えてないのか?ハイト...」  「すまない、盗られるほどの金は...無いと思うよ....」  「お前オレを誰だと思ってんだ?  だが冗談言える体力があって安心したわ」  勝手に納得された....詐欺師こわ....  と言いたい所だが、ハイトは自分の事だろうけど、聞いてみる。  なにせ、名前すら覚えていないから。  「ハイト、それは僕の事かい....?」  「そうだよ、お前はハイト。そしてオレは、あんたに一度だけ世話になったベイルだ。  もう一度聞くけど、本当に何も覚えてないのか...?もちろん、この目の前の木々の荒れ具合もだ」  完全に覚えていない、と言うか記憶の断片すら感じない。  いくら頭を振り絞っても出てくる記憶が寝起きから今までの間だけだ。  それともうひとつ、なんかお花畑が記憶にある。  そこに咲いているのは小さくて白く、そして弱く優しい光を放っている花の一種類のみ。    “僕の人生はメルヘンで出来ているのか?”なんて自問自答をした。もちろん、心の中で。  ..........  「うん、さっぱり覚えてないから忘れた...  でもお花畑が記憶に────」  「置き去りにして置賜して良いかー?」  「でもそれ以外が本当に思い出せないんだ....どうも自分でも分からないんだ....」  ..........  「冗談、では無さそうだなんだが...  お前はメルヘンか」  (信じるけどツッコミ入れるのか…)
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