第1章

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いつものように、 博雅は徒歩(かち)で晴明の屋敷に来た。 夏の終わり……夕暮れの風が涼しく感じられる。 風に乗って運ばれてくるのは、 金木犀の香り。 清らに甘いその香りが今日は一段と強く感じられて。 重たげに揺れる豪奢な金の枝を見上げた。 「……あ」 南階を上がった所に控えているものがいつもの式神ではないことに気づいて、 博雅の足が止まる 。 紅鬱金の狩衣に垂髪をうなじで一つにまとめた式が顔を上げる。 切れ長の目の端正なその顔は、 男のもの。 ……もう初冠(ういこうぶり)はとうに過ぎている年頃なのに垂髪とは。
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