第1章

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そしてここで吹く笛は、 どこで吹くよりも何倍も澄んで豊かに響くように思えるのだ。 「薫、 酒を」 晴明に命じられて薫と呼ばれた式が頭を下げる。 「どうした?」 退がっていく式を見送る博雅の視線に、 晴明が問うた。 「いや……童でもあるまいに、 なぜ垂髪なんだ?」 「俺は稚児趣味は無いぞ」 晴明がちょっと憮然とした顔になる。 「今業平(いまなりひら)というところさ。 たまには良かろう……美女ばかりでも飽きてしまう」 そう言って、 陽が落ちた庭に咲き誇る金木犀を見やった。 「花が咲いている間だけの、 座興だ」 金木犀の香りを先触れに、 薫が酒と肴を運んでくる。
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