友達のお母さん

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娘には友達がいるようだ。 いるようだ、というのは娘から直接聞いたわけではなく、ママ友を通じて知ったからだ。 娘は友達のことはおろか学校のことも日頃の些細なことも私には話さない。私もパートやら忙しく娘に構っている暇はない。 なので娘に友達がいると聞いたときには心底驚いた。娘は引っ込み思案なところがあり、とても友達が出来そうなタイプではないからだ。 昔はそれほどでもなかったがあの男、夫がいなくなってから急激に変化した。 ろくでもない男だった。手を出したりこそないけれど私のすることに一々口を出し口論が絶えない。そんなときは抑えたいのについついアルコールで鬱憤を晴らしていた。今でもその癖が抜けず苛立ったときにはアルコールを口にすることがよくある。 それから夫が出て行って生活はがらりと変わった。あんな男でも生活費は稼いでいたから、その収入がなくなって私も働かざるを得なくなった。 生活のあらゆるところを見直し貧しい生活となり、時には夫以外の男に媚びへつらい生活の糧となるものを貢いでもらうこともある。 そんな風に変わってから私も娘もめっきり笑顔はなくなり楽しいことなどない毎日。だからこそ娘に友達がいるというのは驚いたこと以上に高揚するものがあった。 カチャリとこじんまりとしたアパートの扉の鍵が解錠され娘のミヨが顔を覗かせる。私の顔を見るなり酷く驚いた表情を見せ玄関に程近い自分の部屋へと駆け込んだ。けれどすぐに出てきて恐る恐る私に近づく。 「ママ…  明日ね…  」 喉に何かが詰まったかのように娘は声を途切らせ、じっと見つめると余計に喋りにくいのか、畏縮し俯いてモジモジとしている。 「何?」 「ぅ…ううん  何でもない」 娘はまた部屋へと戻っていった。いつもこんな感じで娘とはまともな会話がここのところはない。 私はテーブルに置いていたグラスを口へ運んだ。その時固定電話に着信が入り私は思わず咳き込んだ。 電話なんて携帯以外にはもう掛かってこないと思っていた。節約のために解約しなければと思っていた矢先だ。 相手の電話番号すら表示されない旧式の電話器から受話器を取り上げ耳に押し当てる。 「もしもし」 返事はない、無言電話、いえ、微かに聞こえる息づかい、何となく聞き覚えがある。
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