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 彩子は自分のスマートフォンのアプリを起動させた。 「あれは本当に魔除けのつもりで渡したの」 「まさか、あの孫指に……」 「GPSを入れたの。小さいけど超高性能でめちゃくちゃ高かった」  彩子は画面を見てアプリのパスコードを解除して地図を表示させた。すると、予想外の物が表示された。 「河口さん、気を付けて、もう……」  彩子は言いながら画面から目を離して河口の方を振り返ったが、河口は何かうわごとめいたことを呻くと、どさり音をたてて床に崩れ落ちて行った。 「ごめんね、彩子……」  床にうつ伏せになった河口の背中には注射器が刺さっていた。彩子は謝る人物の方を見た。その後ろには、河口から奪ったらしい銃を構えている男が控えていた。 「友情ね。聞いてあきれるよね、杏樹」  彩子のスマートフォンに表示された地図は寸分狂わず、このマンションの建物を指示していた。つまり杏樹はもうこのマンションに戻っていた。コンシェルジュは恐らく後ろにいる男が足元かどこかで脅していたのだろう。 「ごめん。彩子を連れて行かないと、杏奈を殺すって言われたの」 「まあ、そういう風に使われるカードだからそうやって脅すのが順当だよね。だから冷静になって欲しかったけど仕方がない。杏樹の後ろにいる人。その人忍野慶次さんでしょう? 危ないから銃は下ろして」  男の額はギラギラとねばついた汗で光っていた。広報誌の写真やテレビ出演の時の爽やかで毅然とした様子はいささかもない。  追い詰められた様子の忍野を見て、彩子はこれはあわてなければいけないと思った。鬼塚はもうこの男に見切りをつけている。もう彼は鬼塚にとってジョーカーでもエースでもキングでもクイーンですらもない。  いつでも放り投げられるカードになってしまっている。これは『悟りの園』にいる人間の命が鬼塚の手のひらの上にあるということだ。 「こちらからも、お願いだ。君が来てくれないと私は彼女を殺さなければいけなくなる。君が暴れたり抵抗したりしても同じことだ」  何の茶番なのだろうこれは。と彩子はおかしくなってきた。 「サイコパスの情に訴えかけて効果があると思うならもう少し勉強してから出直してほしいところだけど、私は杏樹に借りがあるから。杏樹、これでもう、私はあんたに一生分の借りを返したからね」 「彩子、ごめん」 「あんたは、あたりまえのことをしただけ。一番大事なのが杏奈だってことを甘く見てた私のミスだよ」  彩子は忍野に両手を差し出した。忍野は銃だけでなく河口から手錠を拝借して、彩子の両手にかけた。
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