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河口はその音が気になってたまらなくなり、中で吉田が通話している車から離れた。舗装されていない田舎の道に、革靴できたことを後悔する。まるでその音に反応しているかのように木々がざわめいていた。音に近づいていくうちに河口の心は弾んだ。そして来た道を少し戻ると、自転車が一台くらいなら通れそうな小道を見つけた。
音はどうやらその道の先から聞こえているようだった。
河口はその音を確かめたかった。恐らくスピーカーを通した音ではない、生のピアノの音だ。小道を進むと、はっきりとその音色が聞き取れた。
リストの「ラ・カンパネラ」だ。難曲の代名詞と言っていい曲でイタリア語で「鐘」と言う意味だと思い出した河口は、自分の警鐘が打ち鳴らされているかのように緊張した。噂が真実ならば弾いているのが「彼女」の可能性がある。
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