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小道を抜けると、その家はあった。一見すると、別荘地特有の実用性がどこか欠いているように見える洋風の建物だった。白漆喰の壁と木目の壁、床下が高くウッドデッキがぐるりと家を守るかのように囲んでいる。窓の一つ一つが大きかった。ゆっくりと家に近づき、テラス窓に目を走らせると、アップライトピアノを弾く横顔が見えた。
弾いている人物は小柄で普通の少女にしか見えない。顎の位置で切りそろえられたボブヘアが演奏の動きに合わせて輝きながらさらさらと動いている。それが「彼女」かどうかは河口には分からなかった。河口は四年前の忌まわしい事件の際の「彼女」の写真しか見たことがなかったからだ。
当時十二歳だった「彼女」はまだあどけない顔をしていた。
河口が「彼女」である事を確認するため、ピアノを弾いている指を目で追いかけようとした瞬間だった。
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