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河口が目覚めると白い天井が見えた。頭が重く体中が倦怠感に襲われている。しかし、自分の意識の寸前に何が起きたかを思い出した瞬間身体は勝手に跳ね起きた。
「彩子さん!」
立ち上がろうとするが、自分が病院のベッドにいて、点滴が自身の腕に繋がっているのを理解した。とにかく、助けを呼ぶためにナースコールを押すと、個室の扉から現れたのは庄司だった。
「一体何があった? その背中に注射針を刺したのは西彩子か? 西彩子はどこに行った?」
「注射針を刺したのは彩子さんではありません。僕の記憶で考えられるのは、あの部屋に何者かが潜んでいて、彼らが彩子さんをどこかに連れて行ったということです」
「くそったれ!」
庄司はそう言いながら檻の中の猛獣のように河口のベッドの周りをウロウロと歩いた。
「庄司警部、僕が寝ていた時間はどれくらいですか?」
「きっかり六時間だ。お前が寝ているのに気付いたのが四時間前。昨日見つかった仏さんのせいで、お前の行動を確認するのが遅れた。死んでいるのかと思ったよ。死んでいるように見えた。まるでお前の体重を知っているかのような薬の効き具合だと医者が言っていた。くそう。俺は別に西彩子に死んでほしいわけじゃない。けど、攫われて六時間も経っていたら……」
「大丈夫です。彩子さんはすぐには殺されません。それは本人が言っていました。鬼塚が彼女の肉体でやりたいことは、食材として彩子さんを活け造りにすることです。そのためにかかる時間の範囲内で彼女が殺されることはありません」
庄司は目を真っ赤にしていた。
「生きているか死んでいるか。それだけが問題じゃあないだろう? あの男は人間じゃない。どんな酷い目に遭うか想像もできない」
鬼塚の実家で庄司が何を見たのか、河口は聞いていた。恐らく悪魔の存在を信じざるを得ないだろう。
「彩子さんは自分だけはあの悪魔に立ち向かえると信じていました。僕たちにできることは彼女を探し出すことと、彼女を信じて鬼塚を捕まえるために必要な準備を整える事です。それに……」
河口は大きく深呼吸をした。
「たとえ、彼女まで犠牲になったとしても、彼女の力を借りられなくなったとしても、彼女のために、本栖さんのために、鬼塚の餌食になった沢山の犠牲者のために、それに自分自身のために、僕らが絶対に鬼塚を捕まえなくてはいけないんです」
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