月と闇と

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 ゼルがあげた右手を下ろす  ――ガルルルルルル――ゥ  するとゼルの背後の闇が立ち上がり、全身が真っ黒な獣が飛び出した。 「ヒ、ヒィイイイイイあ、アンタは!」  竜也は逃げ出した。それはそれはものすごいスピードで崖を駆け上っていく。しかし、ゼルの背後に在った(ジュドゥ)はそれを上回るスピードで駆け上がり、あっという間に崖の上に届いた。 「か、勘弁してくれ! お、おい! 仲間だろ!」  竜也はまだ川底にいるであろうゼルに向かって必死で呼びかけた。  しかし…… 「仲間だと?」 「ヒィッ」  ゼルはいつの間にか目の前に立っていた。 「闇に生まれし者は闇の中に溶け、おとなしくしていればいいものを。オマエもまた、人間どもと等しく醜い。今宵は満月。ボクはキミのその醜さを許せそうにない」  やめろ! やめてくれ!  わ、あああああああああーーーーーっ  …………  ……  …  黒き獣が一歩、竜也に近づくと、竜也は谷底へ落ちた。  ――グルルルルルゥゥゥウゥウ 「やめないかジュドゥ。ソレは醜い。そんなもの喰らえばオマエが汚れてしまうよ」  ゼルが手を払うと、光が輝き、竜也だった肉の塊は消えてしまった。 「ああ、美しい夜だ。この夜を汚す者をボクは許さないだろう。ただ、それだけのことだ……」  なぜだろう?  ゼルはそっとケイの瞳を閉じてやった。  そしてその瞳にさっきまで映っていた月を見上げた。 「待てよ……この景色……前に見たことが……」
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