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「ハルさん、俺、珈琲とケーキにします」
椅子に坐りなおすと、柊は注文を頼んだ。まだ傷ついてはいるが、平然と喋ろうとしているのが見てとれた。
「ケーキは何にする? レモンタルトと、木苺のムースと、チョコレートケーキがあるけれど」
「……じゃあ、レモンタルトにします」
柊の答えに、秋鹿ははっとする。今日はじめての、レモンタルトだった。
「秋鹿、」
ハルが嬉しそうに秋鹿を呼ぶ。
「はい」秋鹿は急いで返事をした。
「レモンタルトの盛りつけを、お願い出来ますか、」
「でも、」
ハルはにっこりとして、
「秋鹿の好きなように、やってごらんなさい」
「──はい」
秋鹿はキッチンに入った。家族以外の人に食べさせると思うと、緊張する。責任重大だ。ふるえる手で、ケーキを皿に盛りつけていった。粉砂糖をふるい、ブルーベリーとクリームを添える。教わったとおり、心を込めて、食べてくれる人が笑顔になるように。
仕上げにミントの葉を飾った。皿を持ってカウンターに戻ると、ハルと柊は親しげに会話をしていた。
「柊君も、今日の集いに参加するの?」
「いえ、俺は行きません」
やや固い声音で、柊は答えた。集いのことを話すのならば、やはり彼もあやかしなのだろうか。
おばあちゃん、と、秋鹿はハルに呼びかける。
「これで大丈夫、」
盛りつけた皿を見せる。
「綺麗に出来ましたね。ばっちりよ」
ハルは珈琲をカップに注いで、ケーキと一緒に柊の元へ持っていく。
「お待ちどおさま。珈琲と、レモンタルトよ」
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