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「秋鹿、手伝って頂戴」
ハルに呼ばれ、秋鹿は傍にいく。
「おばあちゃん、集いって、何、」
小声で囁く。
「私もよくは識らないのだけれど、夜にあやかしたちが集まって、何事かお話しするそうよ」
あやかしの集会とは、どんなものだろうと、秋鹿は想像した。
「何処でやるの、」
「さあ、何処かしら。何分、集いのこと自体が、人間には秘密のようだから、きっと訊ねても教えてはくれないでしょうね」
「そう……」
さあ、持っていって頂戴と、盛りつけの済んだケーキ皿を両手に持たされる。秋鹿は緊張しながら客席に運んでいった。皿をひっくり返してはいけないと、手元ばかり見て足元に注意がいかなかった。茶漬けがいるのに気がつかず、思いきり尻尾を踏んでしまう。
「きゃあー! 痛いっ!」
叫び声に驚いて、思わず皿から手を離した。派手な音を立てて皿は割れ、ケーキは床に落ちて潰れた。
「まあ、大丈夫ですか、秋鹿、茶漬け、」
ハルがすぐさま駆け寄ってくる。秋鹿はその場に棒立ちになって、声も出ない。何事か起こったのか、咄嗟には理解出来ず、ただ自分が酷く悪いことをしたのだけは殴られたみたいにありありと判った。
茶漬けが甲高い声で吠え立てる。
「痛いー、痛いよう、兄者あ、兄者あ、俺の尻尾取れてない? ねえ、取れてない?」
「ご、」
ごめんなさいと、云いたいのに、喉がつかえて喋れない。耳の奥が、うわんうわんと気持ちの悪く鳴り響く。
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