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「秋鹿あ、ひどいよお。せっかくおちかづきになったのに、俺の尻尾をちぎるなんて、酷い奴だー。秋鹿なんか嫌いだあ。大っ嫌いだあ」
「落ち着け、茶の字。そう喚くでない。お前の尾っぽは、ちゃあんとお前の尻にぶら下がっておるよ」
清明行者が云う。茶漬けはぴたりと喚くのをやめて、
「本当ー? 本当にー? 兄者あ、本当ー? 俺の尻尾、取れてない?」
「ああ、行者殿の云うとおり、ちぎれてなどおらぬ」
助六は頷いた。
「本当ー? やったあ、良かったー! 俺の尻尾ついてるー!」
茶漬けは大きく左右に尻尾を振った。
「折れてもいないようだ。良かったな、茶の字」
「良かったなあ、ちゃのじー」
清明行者の言葉を野遊丸がくり返し、皆は笑った。
ハルが秋鹿にそっと云う。
「私が片附けておきますから、秋鹿は二階で少し休んでいらっしゃいな」
ね、と、やさしく促す。
「はい……」
と、秋鹿は答えて、二階に上がった。自分の部屋に入ると、枕を抱えてうずくまった。何も考えられなかった。指の先が、冷たくて痛くてどうしようもなかった。
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