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しばらくして、扉の外からハルの声がした。
「秋鹿、いますか、」
「……はい」
答えると、ハルは戸を開けて顔を覗かせた。
「大丈夫ですか、秋鹿」
秋鹿は頷き、「……ごめんなさい」頭を下げた。
あんな失敗をして、あんな酷いことをして、迷惑をかけて、ハルにも、茶漬けにも、他の客たちにも、申し訳なかった。もう二度と、店には出られないと思った。
「大丈夫よ、秋鹿。そんなに大ごとに考えないで。失敗は誰にでもあります。私だって、未だに失敗だらけですよ」
「でも、茶漬けに痛い思いをさせてしまって……」
「あの子はもう平気ですよ。すっかり忘れてしまっています」
「おばあちゃんのケーキも台無しにしてしまって……」
「仕方の無いことよ。でも、そんな風に考えてくれるのは、嬉しいわ」
ハルの受け答えは穏やかだった。ちっとも秋鹿を責めてくれない。
「でも……、」
「秋鹿、こんなことくらいで、誰もあなたを嫌いになどなりませんよ」
大丈夫ですよと、ハルは微笑む。
「さあ、まだ閉店の時間には早いわ。もう少し、手伝ってもらえますか、秋鹿?」
これ以上ハルに迷惑をかけるのは厭だった。しかし、ハルが秋鹿の為にそう云ってくれているのは判った。
「──はい」
秋鹿はハルと一緒に店に下りた。
清明行者たちはすでに帰っていった後だった。茶漬けたちの姿も無い。みんな、厭な気分になって帰ったんだと、秋鹿は思った。
すぐに新規の客が来たが、人間の客だったので、ハル一人で応対をした。中年の女性二人はチーズケーキを食べ、カフェオレを飲んで帰っていった。
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