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 秋鹿は思わず声を上げそうになる……図書館で会ったあの高校生である。夏休み中のはずだが、制服を着ている。部活の帰りだろうか。それともこちらの学校ではまだ夏休みが始まっていないのだろうか。  少年は店内を見回し、秋鹿の方に顔を向ける。はっきりと、目が合った。 「お前……、」  やはり彼には秋鹿のことが見えているようだ。「──ハルさんは、」と、訊ねてくる。見られている、と、思うと、秋鹿は言葉が出てこない。うつむき、(くび)を振った。表の『一時留守』の札を、彼は気附かなかったのだろうか。 「ハルさん、いないのか。まあ、いいか」  少年は慣れたようにテーブル席に坐る。 「お前、誰。小学生?」  相手の(たし)かなまなざしを感じて、秋鹿は顔を上げられない。小学生に間違えられるのは心外だったが、喉の奥が強張って、何も云えない。黙っていると、 「喋れないのか、お前、」  また、勘違いをされる。  否定も肯定もせずに、ただうつむいていると、彼は秋鹿を相手にするのをやめたらしい。鞄から本を取り出して、読みはじめた。 「あ……、」  今度は声が出てしまった。それは秋鹿が憧れていたあの本だった。秋鹿が床に落とした後、拾い上げて、彼が借りたらしい。  少年は(にら)むように秋鹿を見上げた。 「何、喋れるのか、お前」  秋鹿は無意識に後ずさりをした。怒りの感情を宿した少年の睛は、何処(どこ)かおそろしい迫力があった。そこへドアベルが鳴って、ハルが帰ってくる。
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