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「ただいま戻りました。──あら、柊君。いらっしゃい」
少年を見て、一瞬驚いた表情になったが、すぐに笑顔を向ける。
「ハルさん、こんにちは」
少年も睛の光を和らげて、礼儀正しくハルに挨拶をする。
「ごめんなさいね、柊君。ちょっと牛乳を買いにいっていたの」
「俺、運びます」
少年は椅子からすばやく立ち上がり、ハルの手から買い物籠を受け取る。
「ありがとう、助かるわ」
「いえ、冷蔵庫に入れておけば良いですか、」
「ええ、お願い」
少年がキッチンに入ると、ハルは「秋鹿」と、小声で秋鹿に囁いた。 秋鹿はハルの傍に寄った。
「ごめんなさいね、大丈夫だった?」
「あ、あの人……、」
「柊君? うちの常連さんの一人よ。ごめんなさいね、どうも慌てていたみたいで、『一時留守』の札を掛けたつもりが、地面に落ちていました。柊君が気附かなかった訳だわ。私の不注意で、秋鹿には怖い思いをさせてしまいましたね。ごめんなさい」
「ううん。あのね、おばあちゃん、あの人……」
秋鹿が喋りかけたところに、柊がキッチンから出てくる。
「ハルさん、冷蔵庫に全部入れておきました」
「ありがとう、柊君」
「いえ、大したことじゃありませんから」
柊は席に戻った。秋鹿はカウンターの隅で小さくなった。
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