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「ええ、この子は私の娘の子どもで、真賀田秋鹿。中学一年生」
「ハルさん、娘がいたんですか……、」
動揺を隠しきれない柊に対し、ハルはいつものようにやわらかに微笑んで、
「そりゃあ、孫がいるくらいですからね。娘だって、いますよ」
「そうですか……」
柊はハルのことを、見た目どおりの年齢だと信じていたのだろう。まだ納得がいかないらしく、秋鹿のことをきつい目つきで見てくる。秋鹿はカウンターに戻ってきたハルの翳に隠れた。
「私のたった一人の孫なの。仲良くしてやって頂戴ね。夏休みの間は、この家にいるから」
ハルの言葉に、不承不承と云う風に柊は頷いた。
「……そいつ、人間なんですよね」
「ええ、そうですよ。ただ、あなた以外の人には、姿が見えない状態なの」
柊は再び眉をひそめた。
「どう云うことですか、」
「私にも、この子の母親にも、この子のことが見えないの。今こうしていても、私には秋鹿のことが見えません。喋ったり、触ったりすることは出来るけれど、見ることだけは出来ない。どうやら、柊君、あなただけがこの子を見ることが出来るみたいですね」
「何でそんなことに、」
「それは誰にも、秋鹿自身にも、判らないことなの。ねえ、秋鹿」
秋鹿は頷いた。へえ、と、柊はもう興味が無くなったと云うように、秋鹿から顔を反らした。息の詰まるような感じが消えて、秋鹿はほっとした。
本当に、どうして彼だけが秋鹿のことを見えるのだろう。母親の夏紀でさえ、見えないのに。普通の高校生のようだけれど、彼もまた、あやかしの仲間なのだろうか。あやかしが、人間の学校に通うのだろうか。やっぱりただの人間なのだろうか。確かめる勇気を持たない問いが、頭の中を回った。
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